最近読んだ中で特に印象深く残っている漫画は何だろうと考えたとき、まっさきに思い浮かぶのが『天幕のジャードゥーガル』という作品である。
本作は、モンゴル帝国を生きた女性たちのお話。そして主人公はイランの奴隷少女シタラだ。彼女がモンゴル帝国の襲来によって捕虜となり連行されることで、物語が大きく動き始める。シタラは奴隷時代に出会った「知」という武器を手に、ひそかに、しかし力強くモンゴル帝国への復讐を誓う。
わたしはこの作品の舞台となっているモンゴル帝国について何も知らないし、まったく馴染みがない。だからこそ、常に新鮮な驚きやワクワクを持って漫画を読み進めている。歴史でほんの少し触れただけの、チンギス・カンの時代のモンゴル帝国。ノリに乗っている当時のこの国の温度感を、漫画を通して感じるという体験が最高におもしろいのだ。
ただ、時代も文化も違う人たちの物語は、読んでいて「わかる〜」と共感できるシーンばかりではない。むしろ最初はわからなさに少し戸惑いさえ覚えた(普段触れている作品が現代日本を舞台とするものばかりなせいだが)。価値観とか、どんなことにどんな感情を抱くかとか、何が常識とされているかとか。例えばシタラは「奴隷」だけど、主人である奥様に大事にされていたことがよくわかる描写がなされているなど。そういう知識がなくて「へ 〜」と思ったりした。もちろん、遊牧民の生活様式も現代日本を生きるわたしには経験がなく未知のことばかりだ。
正直、わたしは主人公であるシタラにそこまで感情移入できないでいる。復讐心に燃える彼女の心中を察することはできるが、彼女が何を感じ、何を考えているのか、わからない瞬間もある。それはシタラが自分の内面を大っぴらにしないことも多いからではあるのだが。彼女が憎しみの炎を絶やさぬよう強く生きる様子は、読者であるわたしを強く惹きつける。そんな「わからなさ」も含めて、夢中で読み進めてしまうだけの魅力がこの作品にはあるのだと思う。
他にも、個性の強いキャラクターたちとか、デフォルメされたかわいらしい絵柄、細かく描き込まれた皇后たちの華やかな衣装など、この漫画の好きなところを挙げるとキリがない。モンゴル版大河ドラマ、と言ってもいいような壮大さも感じられる。
ちなみにこの『天幕のジャードゥーガル』、書籍表紙には英語で「A Witch’s Life in Mongol」と表記されている。主人公は実在した人物がモデルになっていて、彼女はのちに魔女として帝国を翻弄する存在になるそう。1人の奴隷少女の数奇な人生を描いた本作、「シタラ」という少女の眼を通して語られるモンゴル帝国の行末はどうなるのか。今1番新刊が楽しみな漫画かもしれない。
今週のお題「最近読んでるもの」