映日堂

ままならない日々のこと

わたしの知らない人たちと知らない会話を

朝、仕事へ行く夫と一緒に家を出た。夫は自転車、わたしは車だ。

車を走らせてしばらくの信号を通り過ぎるとき、赤信号を待っている夫を見つけた。通る道は違ったが、ちょうど出会えたようだ。

彼の顔を見ながら横を通り過ぎるとき、なんだか不思議な気持ちになった。それは「得したな」というような嬉しい気持ち。普段一緒にいるときの夫しか知らないから、そうじゃない様子を見れたことが新鮮なんだと思う。

わたしはどこにも勤めていないから家が唯一の居場所で、接する人間も基本的には夫だけだ。しかし夫には家以外に職場という居場所がある。そこではわたしの知らない人たちと知らない会話をする彼がいるんだろう。

普通は見られない別の顔が夫にはある。偶然信号待ちの彼を見かけたときの嬉しさには、そういう一抹の寂しさも含まれていたのかもしれない。

目的地に到着してからLINEで聞いてみたら、向こうもこちらの車に気づいていたらしい。一方的でなかったことに、さらにちょっと嬉しい。